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2018/11/17 [PR]
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2009/02/23 第131話:こんなところで会うなんて・・・ 
「それにしても席が空いててよかったな~」 「おおお、マジでそうだよな~・・・」 「乗れねーかと思ったよ。」 「でも、早く並んでおいて正解だったぜ」 僕の向かい側
2009/03/22 第132話:対極の2人 
「大学の講義じゃなくてこんなところで会うなんて・・・。」 僕と井口はともに口を揃えてこう言いあった。 それからしばらくして・・・。 「ふーん。そうなんだ~。長崎までね。それで
2009/03/23 第133話:いざ鹿児島へ 
「いい風だな~」 僕の乗った列車の車窓の外には南北に連なる海岸線が広がっていた。 そして海の涼しい風が車窓の中へと入ってくる。 「ああ気持ちいい~」 この涼しい風に当たって
2009/03/26 第134話:入校日のその日に 
「えっとこれがバスの時刻表です。このバスはここへの直行便で勿論無料となります。   えっとそうしますとタケオさんの入校日は今週の木曜日となります。 時間に遅れないようにしてください。」
2009/04/08 第135話:中途半端な僕に・・・
「どうして神様はこんな僕に残酷なんだ・・・・。」 僕は帰りのバスの中でひとり、こうつぶやき続けていた 「もう終わったと思ったのに・・・もう一生会う事もないと思っていたのに、そう信じてい
2009/05/15 第136話:後ろを振り返ると・・・ 
今朝はいつもより澄んだ空だった。 いや僕にだけそう見えたのかもしれない。 そう、僕の心もすっかりどす黒い曇り空から台風が過ぎ去った後のあの青く澄み切った青空のようだった。 &nb
2009/05/15 第137話:やっぱり無理なのか・・・ 
「ようタオケ!お前も来てたのか?」 僕は後ろを振り返る。 するとそこには今日対峙するはずだった江田が、、、、そこにはいた。 『えっ』 僕は完全に不意をつかれた。
2009/05/16 第138話:震えのとまらない手に 
「江田!ちょっと待て!!」 僕は思わず叫んだ。 それに対して江田は、、、、 「は?なんだって?」 こっちを振り返るなり江田の口調が荒っぽくなった。
2009/05/21 第139話:くれぐれも安全運転でな! 
自動車学校通いの3週間の生活も無事に過ぎ、先ほど卒業検定いわゆる卒検が終了した。 「それでは合否を発表します」 僕は目をつぶり、そして息を呑んだ。 「タケタケオ君は・・・」
2009/06/04 第140話:翻弄され続けて僕
「おお!1ヶ月でこんなに変わるんだぁ~」   山手線の車窓からは新宿タイムズスクエアの隣に位置する建設途中のタワーらしき建物が見えた。   1ヶ月前はまだ足場が建物

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第131話:こんなところで会うなんて・・・ 

「それにしても席が空いててよかったな~」


「おおお、マジでそうだよな~・・・」


「乗れねーかと思ったよ。」


「でも、早く並んでおいて正解だったぜ」


僕の向かい側の席からこんな会話が聞こえてきた。


僕はこの会話を、目を閉じたままピクッ!ピクッ!と眉間にしわ寄せながら聞いていた。



『どこかで聞いた事ある声なんだよな~。誰だったかな~』



僕はこの向かい側の席で行われている会話を聴きつつ、頭の中では声紋の一致する人物の特定を急いでいたのだった。



しかし、人間そんな時ほど思い出せないものである。




『あ~、誰だったかな~

アイツでもないし・・・こいつでもないし・・・。

ああ~誰だ!誰だ!!誰だ!!!』




あなたにもこんな経験はないだろうか?




思い出せそうな記憶が、この・・・この喉の近くまで来ているのに、


ここまで来ているのに・・・・・ああ!吐き出せない!! ああ!思い出せない!!という経験を。




この時ほど自分の記憶のなさを思い知らされる事はない。




この時の僕もそうだった。




『でも・・・・ここで、目を開けて確認したらなんか・・・俺の負けだしな。。。。』


僕は負けたくなかった。




そう、負けたくなかったんだ。




『思い出せないうちに目を見開いて向かい側にいる人物を確認した瞬間、僕は負けてしまう』

そんな心境の中に僕はいた。



しかし、そんな大それた心境にあっても



僕の記憶は特に・・・




たいした記憶じゃない。





当時世間をにぎわしていた渋谷によく出没するヤマンバの言動に例えるならば



「んん~~



別にいんじゃね~? かったるいし~。



てかどうでもいいっしょ!」



という程の記憶のレベル。



しかも別に誰かと競っているわけでもない・・・・・。



しかし、そんなレベルの記憶であっても思い出せないのはなんとなく気持ちが悪いから人間ってのは厄介だ。



僕はそんなこんなで、思い出すまで目を開ける事も、ましてや顔を上げることもしなかった。



そんな時だ!!



ビビッと


僕の体に電流が走った。



当時、松田聖子が6才年下の歯科医との出会いを語った際


「会った瞬間、ビビビッと来たの!」

と、コメントを残し流行語になったのであるが、


僕もまさにそんなビビビッと来るものがあった。 (ちなみにこの流行語は1998年から1999年に流行った)






「あっそうだ!思い出した。あいつの声だ!


でも・・・・うそ!


こんなところで、、、、まさか!!!』




僕はすぐさま目を見開き、顔を上げ、僕の目の前にいる人物を見た。




「おっお前!いっ井口じゃね~か!」




そう、そこには僕と同じ大学の、


同じ学部、


同じ学年、


そして前期、大学の授業に余り顔を見せなかったという点では僕と同じくらいレアキャラであった井口が、僕の向かいの席に座っていたのである。





勿論、向こうの方も僕に気付いたらしく


2人で



「えっええええ~!!!!!」


と叫びに叫び、驚き・・・驚きまくったのである。



これはなんと言う偶然というか・・・・確率であろう。


これは宝くじの一等当てる確率くらいに、いやそれ以上にあり得ない確率であるといえるのではないだろうか。



しかも、大学において2大レアキャラと言われる僕と井口が、大学の講義ではなくギューギュー詰めの夜行列車、


そして同じ時間・同じ車両、


しかも向かいの席に座るなんて事・・・・・・・


これはもう偶然と言えるような出来事ではない。



まさに奇跡である。



それまでの人生においてこれほど、驚いた事はなかった。


(ちなみに、大学時代あと数回、同じような奇跡にであう。宝くじには全く縁がなかったのに・・・・)




そしてお互いにまず言い合った言葉は当然、


「大学の講義じゃなくて・・・・こんなところで会うなんて。。。。」

であった。





姉さん、
喉に詰まっていた記憶はちゃんと吐き出せたけど、レアキャラ同士が出会ってしまう今回の旅・・・・もうひと波乱起きそうな予感です。


つづく

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第132話:対極の2人 

「大学の講義じゃなくてこんなところで会うなんて・・・。」

僕と井口はともに口を揃えてこう言いあった。


それからしばらくして・・・。


「ふーん。そうなんだ~。長崎までね。それで同じ長崎出身の寮生と帰るわけか・・」


僕たちは奇跡的な出会いを共有し、落ち着いたところでこれまでの経緯を語り合ったのだった。


「そうなんだよ。途中、神戸や岡山に立ち寄って友達のところに泊まりつつ、明日長崎に帰るというわけ・・・」


「へええ~。神戸か~・・・・」


僕はこの神戸という言葉を聞いて即・・・

『神戸と言えば・・・・神戸牛か』


「んじゃあ井口、、、神戸で神戸牛とか食っ」


「ところでお前はどうしてこの列車に乗ってるんだよ」

と、僕の質問をさえぎるかのように井口が僕に問いかけてきた。


「えっ俺?? 俺は、そりゃあノープランよ」


「はっ?ノープラン?」


僕はこの旅で起った数々の出来事を井口達に話したのだった。


「あははは、お前京都まで行って見たの清水寺だけかよ!そんなの修学旅行でも行けるぜ・・・」


井口は案の定、大笑い。


「おいおい、お前笑いすぎ・・・。てか、めちゃくちゃ大変だったんだぜ。」



「いやわりーわりー。まあ俺らも似たようなもので、俺らも神戸牛は食べてねーよ」


「おい!聞こえてたんかい!」


僕は思わずツッコミをいれた。


「でもまあ、京都に行ってよかったのは西日本というか・・・関西弁が日常的に話されている環境が見れただけでも、俺にとっての初体験なようなもんだし、いい経験になったよ」


僕は京都での出来事をシリアスモードにキメてみた。

それを聞いていた井口がすかさず、


「ふーーん・・・・

でも行ったのは清水寺だけだろ・・・。」

とツッコむ。


「そう。

・・・・・そっそうって思わず言っちまったじゃねーかよ。

しょうがねえだろ。京都があんなに暑いなんて聞いてなかったんだから。」



「で、お前が京都に残してきたものと言えば汗臭さとデパートガールを不快にしたってことね・・・うんうん。」


「それをいうなよーーーー」



「あははは」


僕らはお互いに笑いあった。



「そりゃあそうと、井口って、うちの大学の敷地内にある寮に入ってるんだよ?」
と僕。


「そうだよ。」



僕は以前から井口の入ってた寮に興味があったので


「寮生はどれくらいの人数がいるわけ?」

と質問してみた。


この質問に対して

「・・・えーーーとざっと100人くらいかな?」

と井口。




「えっ! 100人??」


僕はあまりの人数の多さに思わず井口の答えに対して、声が高くなってしまった。



「タケオのところはどれくらいだよ」


今度は井口が山手学舎の人数を聞いてきた。



「えっ俺のところ?

俺のところは定員が15名らしいだけど、今は11人かな?」

と僕。



「え? 11人!?」


今度は井口が、あまりの人数の少なさに思わず僕の答えに、声を高くしてしまったようである。



「そう。だから嫌でも顔を見なけりゃいけないわけ・・。

しかも2人部屋だし。

ちなみにうちは自治寮だから、毎月舎懇ていうのがあって、

いつも終わるのは午前2時とかになるくらい長いんだよ。やばくねーー?

しかも自分の部屋にはテレビを置けないのに寮にはテレビが一台しかないん

だよ。あり得なくね~。

なのにビデオばかり見る先輩がいてゲームすらできないんだぜ。」

と僕は、日頃の金さんへのうっぷんを晴らすかのようにまた訴えるかのように、山手学舎について説明したのだった。



「へえー。俺のところも2人部屋だけど、テレビは置けるし、人数多いから寮にはゲーム好きな奴もいるんで、そいつにソフト借りてやったりできるよ。

それに俺らの寮も自治寮だけど、寮長が色々やっているみたいでそんな長い話し合いなんてのもないね。」



「はああ、いいな~井口のところは。」


僕は思わずため息をついた。


「実は俺もそこに入りたかったんだよな~。

でも寮費がバカ高すぎて選択肢にもならなかったんだよ。

ちなみに井口のところは【まかない】付きでしょ?

いいよな~。しかも大学の敷地内にあるから通学だってないわけだし・・・。」


僕は井口の寮の環境が羨ましく思えた。


それに対して、


「いやいや、敷地内にあるからこそ安心しすぎて寝ちゃうんで、講義でれない。

それに朝とか起きれないから、朝食も食べれない・・・」

と井口。


僕は井口のその言葉を聞くなり、井口の体を見直した。


「そっか!だから井口はちょっと体が細くなったんだね!?

飯を食べていないという点で体が細くなったのも合点がいくよ」

と僕。





「いやいや別に、入学したときから体は変わっていないし、体が細いのは元々生まれつき」

と井口。




そう、井口の体型は僕とは対極にあると言っていってよかった。



つまりそれは、体がかなり細いということ。




そう言えば、僕はいつも決まって久し振り会った人からこう言われる。

「あれ?タケオ君・・・。ちょっと丸くなった?」
と。

けれども、どこに毎回毎回会う度に【丸くなっていく人間】がいるだろうか。


もしそんな人間がいたとしたら僕は丸くなり続け、いつしか破裂してしまうではないか!!


僕はいつもこの「あれ?ちょっと丸くなった?」というフレーズを言われた際は、

『俺は風船人間か!』と心の中でツッコミを入れている。



井口の場合はその反対で

「あれ?井口君・・・・。ちょっと細くなった?」
と言われているに違いない。


けれども、毎回会う度に細くなっては、いつしか井口はペーパーマリオの如く紙ほどの薄さになってしまう。

多分井口は、『あれ?ちょっと細くなった?』

と言われたときは、『俺は紙人間か!』と心の中で叫んでいることだろう。




と、そんなこんなで僕たちは、僕と井口の体が対極にあるように、

自治寮と言っても規模と環境が対極にある寮の存在を知り合ったのであった。




しかしこの時、僕らは将来、寮自体の運命も対極にあるとは知る由もなかったのである。




そして時は流れ・・・朝となり、


「次は博多~博多です。」


と車内アナウンスが流れた。


「とても楽しかったよ。それじゃあ、また大学で」


「おう!会う確率は低いかもしれないけど。あはは」


お互いに笑いあいながら、僕らは握手を交わし井口達は長崎へ、

僕は鹿児島へと帰っていったのだった。





それから3時間後・・・・




ミーン ミンミンミン ミーン ミンミンミン


セミの鳴き声が大きくこだましている。


というより、僕を取り囲みながら鳴いていると行った方が正解だろう。


そう僕はひとり・・・・・無人駅にポツリと立っていた。



僕は思い出したのだった・・・・姉が青春18キップで東京から鹿児島まで帰ってきたときの言葉を。。。


「東京から博多まではとてもスムーズなんだけど、博多から鹿児島までいくまでの電車の乗り継ぎが最悪。

だから乗り継ぎできなかったときは何時間も待たされる事があるみたい。

だから私達はそんな事がないように余裕を持って帰ってきたわ」




『ふん!余裕??

姉ちゃん、、、、俺には【余裕】なんて言葉・・・・・俺の辞書にはないんだよ・・・。


今俺にあるのは【待て】という言葉のみ。』



「・・ていうか、なんで次の来る電車が2時間後なんだーーーーー!!」




姉さん、僕・・・・乗り継ぎに失敗しました。



しかも自分の汗臭さに死にそうです・・・・耐えられない。

風呂に入りたいよ~。


つづく。


第133話:いざ鹿児島へ 

「いい風だな~」


僕の乗った列車の車窓の外には南北に連なる海岸線が広がっていた。

そして海の涼しい風が車窓の中へと入ってくる。

「ああ気持ちいい~」

この涼しい風に当たっているとなんだか汗臭い僕の体が浄化されていくようだった。


「なんだか自分の体じゃないみたい」


久し振りに僕は、こんな気持ち良い風に当たった気がした。



『そう言えば、東京じゃこんな風にはまず出会わないよな』


僕は改めて自然の雄大さを実感し、そして東京という巨大な人工都市の存在を知らされたようだった。



今僕は、西鹿児島駅へと向かう電車の中にいる。               

結局僕は,無人駅に2時間も足止めをくらい、セミの大合唱を嫌と言うほどに延々と聞かされたわけだが、なんとか夕方には鹿児島に着きそうである。


「しっかし、約5ヵ月半ぶりの鹿児島か~。

なんだか1年や2年ぶりのように感じるな~」


多分僕がこう感じたのは、あの山手学舎での5ヶ月間の生活があまりにも濃いすぎた事に起因しているからだと思う。


「いやーそれにしてもやっぱり、鹿児島の日差しは強いな~」


僕はホンの30分程、車窓の中に注がれる日の光に、手や腕を当てていたのが

すでにジリジリと皮膚が痛み出している。


「それかもしくは、東京行って俺の皮膚も弱っちまったのかな?」


そんな事を考えつつ僕は鹿児島の雰囲気を肌で感じていると


「次は終点、西鹿児島~、西鹿児島~」

車内アナウンスが流れた。


「おおやっと、かごんまか!(鹿児島か)

しかし、この約3日間の列車の旅も結構濃いかったな~。

思い返してみればこの旅も色々あった。

駅員とのやりとり・こみ過ぎた夜行列車・韓国人家族・清水寺までの火あぶりロード・京都伊勢丹のデパートガールの視線・井口との奇跡的な再会と語らい・無人駅でのセミの大合唱・・・・。

ちょっと挙げるだけでこんなにもあるわ・・・・。


まあめちゃくちゃ大変だったけど・・・・でも楽しかった。」


こうして僕は無事鹿児島に着き、すぐにその足で実家へと帰って行った。



「おっ久し振りの我が家じゃん!」


僕の目の前には、僕の住んでいた教会兼自宅が立っていた。



ピンポーン



僕は家のインターホンを押した。


しばらくすると



「ハイ」


母親が出たようだ。



「俺だよ。俺」



「えっ?どちらさま?」



「俺だって俺・・・わからないの?」



なんだかこれだけ聞いていると、オレオレ詐欺のようである。



そしてすぐに、



ガチャ


インターホンが切れた。




ガーン!!



息子としては結構これはショックだった。



僕はもう一度、インターホンを押す。



ピンポーン



しかし、



シ~ン



『あれ?でないよ』



僕はもう一度インターホンを押すもののその後も沈黙が続く。



『しょうがねえなあ』



僕は1階の教会の鍵を開け、1階の教会部分から自宅のある3階へと内線をかけたのだった。


すると、すぐまた母親がでた。



「ちょっとなんでインターホンでないんだよ~」
と僕。



「えっ?まさかタケオ?」
と母親。



「そうだよ」



「なにタケオ!びっくりするじゃない! 
誰もいないはずの1階から内線がかかってくるなんて!」



「だってインターホンでなかったじゃん。なんですぐ俺ってわかんないんだよ!」


「わかるわけないじゃない!
オレオレばかりいって・・・・こっちはあなたが東京にいるもんだと思っているのだから当たり前でしょ」



母親の意見は最もすぎて僕は反論できなかった。




ともあれ、僕は実家にも無事辿り着き、念願だったバイクの免許を取るためこれから教習所へと通い始めるのであった。


しかし、その念願だった教習所が僕の最大のトラウマを引き起こす場所へとなっていく。


なんと神様は僕に意地悪なんだろう。


つづく。


第134話:入校日のその日に 

「えっとこれがバスの時刻表です。このバスはここへの直行便で勿論無料となります。
 
えっとそうしますとタケオさんの入校日は今週の木曜日となります。
時間に遅れないようにしてください。」
 
そう僕は今まさに自動車学校の入学を済ませたのである
 
『やった!やったよ!とうとうこの日がやってきたよ。姉さん!
 
いや~長かった!

パクさんの旅行キャンセルから始まり、木田さん、そして築地のバイト…。

で色んな人に助けられてここまできたんだよな。

しかも自分で貯めた金だし、絶対に落としてたまるか!』
 

というのは、約3週間後には大学が始まるのである。

 
つまり僕は遅くとも三週間後には東京に戻らなくてはならないのだ。
 

そう、免許を取るためのタイムリミットまであと3週間弱。


戦いの火蓋が今まさに切られたのである。
 

そして入校日の日。
 

僕は初めての自動車学校と、初体験となるバイクの運転へのはやる気持ちを抑えつつこの日を迎えたのであった。
 
 
「行ってきまーす!」
 
 
僕は元気な声で実家を後にし、先日案内された自動車学校へのバスに乗車したのである。
 
自動車学校到着後、僕は入校式を行う視聴覚室に案内された。
 
しかし僕の来る時間が早かったのかまだ人はそんなに集まっていないようだった。
 

『な~んだ結構少ないんだ』
 
と僕。
 

しかし入校式の時間が近づくにつれぞくぞくと人が入ってくるではないか!
しまいには教室に入りきらないということで急遽、隣の教室も使われることに…。
 
少ないと思ったけど、蓋を開けたらこんなにも人が…。
 

『なんでこんなに人がいるんだよ…俺には時間がないってのに。』
 
なんとなくこのなんとも先行きが怪しい状況に僕は少しイラついたのであった。
しかし、この僕の心境はここにいた皆が思っていた事だろう。
 

ともあれ、入校式も無事終わり、とうとうバイクの教習へ。
 
しかし、バイクの教習を受ける人も多いと言うことで教官一人にたいして3・4人の教習生がつくという。
 
「タケタケオさ~ん。」
 
僕の名前が呼ばれ、僕は僕の担当となる教官の元に歩いていった。
 

「君がタケタケオ君?」
 

「はい!よろしくお願いします。」

 
「はいこちらこそ。今日から君の担当をする原口です。

よろしく!

それでタケオ君は・・・

・・って、、、エ??」


 
 
教官は僕の名前の載ったファイルに目を通すなり、
 
 
「キミ、もしかしてお姉さんとかいる?」
 
 
と、突然質問してきた。
 
 
「えっ?いっいますが…なっなぜそれを…」
 

僕はあまりに突然にしてプライベートな質問だったので一瞬ひるんでしまった。
 
「そうか、やっぱりそうか!

キミのお姉さんの名前はたしか…美奈子とかいう名前だったような…。」
 
と教官。
 

「ええ~なんで名前までしっしってるんですか!?」
 
 
僕はあまりのサプライズに、あとずさりまでしてしまった。
 
 
「いやいやビックリさせるつもりはなかったんだが、キミの姉さんも僕が担当したんだよ。」
 
 
と原口教官。
 
 
「えええ~そっそうなんですか??」
 

なんと偶然な出来事なんだろう。
 

そう言えば僕が高校生だったときに姉が免許を取りに帰省していたときがあったと言えばあったような気はするが…………

こんな大勢が入校したタイミングでしかも偶然にも姉を指導した教官に合うとは…。
 
しかし僕はここでひとつの疑問が沸いた。

 
【なぜ教習生の名前を覚えているのか?】という疑問だった。
 
 
教習生にとって特徴的な教官ならば印象に残る存在かもしれない。
 
だが、教官にとっては教習生などは流れ作業的な意味合いが大きいはずだし、顔をならまだしも、名前まで覚えているなんて事まずあり得ない。
 

しかもこの自動車学校は見た限り回転率もいいようだし、

 
その事を考えれば尚更、何年も前のいち教習生の名前を覚えているなんて皆無に等しいはず。

 
しかし、そんなセオリーを無視してこの教官は姉の名前を覚えていた。
 

『なぜだ!なぜなんだ!』


僕はこの疑問を教官にぶつけてみる事にした。
 

「でもなぜ、姉の事を覚えてるんですか?

姉が免許取りに来たのはもう何年も前の話だし・・・。」

と。


すると原口教官、顔を曇らせ、


「ちょうど、あのときは色々あってね・・・」

とひと言。


僕はあまりにもそっけない答えだったのでさらに質問しようとも思ったのだが、教官の暗い表情を見て思い止まったのであった。


あの時なぜ、原口教官は顔を曇らせたのか。


その時僕は知る由もなかったのだが、この後すぐ真相を知ることになる。


ともあれ、僕の担当してくれる原口教官のグループにはあと2人の人が来るという。


「タケオ君ちょっと待ってね。今回は人数が多いみたいだから・・・・・」

と原口教官。



「あっはい。僕は大丈夫です。」

と僕。

「あとは、、後は江田君と迫田君か。

えーーーーっと江田君と迫田君はいますか~?」


原口教官はロビーに大勢いる新しい教習生達に声をかけたのであった。



この名前を聞いて僕は、


「江田・・・・・。どこかで聞いたような名前。。。。しかも迫田って名前も覚えがあるような・・・・」

と、なんとなく聞きなれた名前だった。


僕は少しの間、その聞きなれた名前を思い返してみた。


すると、ある情景が僕の脳裏に浮かんだ。


けれどもその情景は僕にとって一番思い出したくはないもの。


『いやいや・・・ないだろう。あれだけは思い出したくもないし・・・忘れろ!忘れろ』


僕は脳裏に浮かんだその情景を必死になって消そうとした。



「おっ!来た来た。こっちだ!こっち」

原口教官は僕と同じグループの2人を見つけたようで、彼らにこちらに来るように指示した。


『俺と同じになるグループになる人ってどんな人かな?
女の子とかならちょっと嬉しいかも・・・』


と、とんだ淡い期待を持ちつつ僕は、原口教官のところに来た2人に目をやったのだった。



しかし彼らを見た瞬間、僕の体は一瞬にして硬直した。



「おっ!誰かと思ったらタケオじゃねーか!」



なんとそこに立っていたのは江田だった。


そうまさに僕の知っている江田だったのだ。


こいつこそ僕を自殺未遂まで追いやった張本人。


僕の心は一瞬にして真っ黒に染まっていった。


『どうしよう、どうしよう・・・・あのときとおんなじだ。』



姉さん事件です。


第135話:中途半端な僕に・・・

「どうして神様はこんな僕に残酷なんだ・・・・。」


僕は帰りのバスの中でひとり、こうつぶやき続けていた

「もう終わったと思ったのに・・・もう一生会う事もないと思っていたのに、そう信じていたのに・・・。」


『……えたい。
 
…きえたい。
 
いますぐきえたい。』
 
僕の心の奥底にしまっておいたはずの渦巻く思いが江田に会ってしまったことによって、一気に噴き出した。
 

僕は帰りのバスの中で頭を抱えた。



『今日のところはなんとかしのいだもののこれからほぼ毎日江田と会わなければならないなんて……。』
 

僕の心はどんどんあのときの心境へ戻っていく。
 
 
勿論、実車の予約時間が違えば江田と会う確率は低くなると言えば低くなるのだが、

不運な事に学科科目の授業時間は決まっているため自ずと実車の時間も決まってきてしまう。
 
 
つまり、ほぼ毎日高い確率で江田に会ってしまうのだ。
 
 
『どうしよう!
 
行きたくない。行きたくないよ』
 
僕はどんどんあのときの自分に戻っていった。
 
 
そう不登校になったあの頃の僕に……。



その夜、姉から実家の方に電話があった。

僕もその電話に出て、姉の事を覚えていた原口教官の事を話してみた。


「へええ、タケオも原口さんなんだ! なんかすごい偶然だね」

と姉は、電話の向こうで驚いていたようだった。


「姉ちゃん、覚えてるの?」


「うん、車の免許を取りにいったときの担当教官だよ」



「へええ、でもなんでそんな昔の事を姉ちゃんは覚えているわけ?」

僕は教官に聞けなかったあの質問を姉にしてみたのだった。

「それは・・・教習を受けていた時に原口さんと話す機会があったんだけど、

そこで原口さんが自分の子どもが・・・たぶん5、6歳だとおもうんだけど・・・

娘さんが交通事故で意識不明の状態が1ヶ月間続いているという事を聞いたからね」

と姉。


「えっ~!そうなの??」

僕は思わずびっくり。

 
「そう。だから毎日見舞いに行ってるんだ~って言ってたよ。

私はその後すぐ免許取っちゃったから、娘さんがどうなったかは知らないんだけど・・・・」
 


なんという話だろう・・・・あんなに明るく振る舞っている原口教官にそんな過去があるとは・・・・・。
 


『そっか!だからあのとき……』
 

僕はピーンときた。
 


『あのときは原口教官が
 
【ちょうど、あのときは色々あってね・・・】

と、顔を曇らせたのはそういう理由だったのか。
 

そしてそんな時の教習生が姉ちゃんなんだ!』
 


僕の疑問だった姉と原口教官との接点がこの瞬間、一本に繋がった。
 

『それにしても自分の娘が奇しくも交通事故で意識不明だなんて……。』
 
 

僕はなんとも言えない気持ちになってしまった。
 

そしてその夜、僕は自分の布団に入り一人感慨にふけっていた。
 
 
『自分が教官して交通事故撲滅に力をいれているのに自分の娘が交通事故で意識不明か・・・・。
 
 
でも…今も教官としているってことは………その後どうしたんだろう。
 


う~ん。
 

 
しかしそれにして、なんて悲惨な運命なんだろう…。
 

俺ならすぐ辞めちゃうかもな…』
 


僕はしばらく考えた。
 
 

『すぐ辞めちゃう・・・辞めるか・・・・。』


ふと、この【辞める】という言葉が僕の頭に止まった。
 
 
『そういえば俺って・・・今まで生きてきた中で本気でやり遂げた事って……ないよな。
 
習い事をやっても嫌々ながらやって…結局は何も身につかなかった。
 
いつも中途半端だよな・・・俺って。
 

高校受験だって、大学受験だって勿論頑張ったけど、
 
でもこれは、すでに大人達が引いたレールに乗っただけで自分で切り開いたもんじゃない。
 
 


今回の事だってそう。
 

俺はまた逃げようとしている。 あの不登校のときみたいに…。
 
 
いじめられるから辞めるっていうもっともらしい理由を盾にして。
 
 
また中途半端だ…。


俺の人生……こんな中途半端でいいのか…。』
 
 
 
その夜、僕はしばらく今までの自分を振り返った。
 
 
 
『でも今思えば、こんなすべてに中途半端な俺を

あの人たちは、俺のことをとことん信じてくれたんだよな…。』
 
 
消えたかった僕を、

生きたくなかった僕を
 
 
生きたい僕に変えてくれた人たち…。
 
 

『・・・家庭教師の新垣先生が、ケガしたあともう二度とサッカーなんてやるか!と思ってた俺にもう一度、サッカーの楽しさを教えてくれたし、
 

不登校だった俺の居場所を両親は作ってくれた。
 
それに大学進学の際、お前を信じると俺の進路を全面的にバックアップしてくれた高2から担任だった加茂先生…。
 

ああ~こんなすべての事に中途半端で出来損ないの俺なのに……信じてくれた。』
 
 
・・・・・・・

・・・・・・・・・・・


『そうだ!

そうじゃないか!
 
俺を信じてくれた人がいたからこそ今、俺は今ここにいるんじゃないか!

存在できているんじゃないか!
 

今回、江田と偶然にも出会ってしまったことはめちゃくちゃ嫌だし、消えたいくらいだけど…
 
でもここまた逃げたら・・・・あのときの俺に戻ってしまう。
 

俺はこのまま中途半端で終わっていいのか!
 

……………俺を信じてくれたあの人達がいたはずなのに。
 

俺はあの人たちを裏切るのか?』
 
 

僕は、真っ暗な部屋で一人、天井を眺めつつずっと考えていた。
 
そして葛藤し、自問自答し続けたのだった。
 
 
 
----------------これは俺自身が俺自身で解決しなければいけない問題じゃないか?
 
 
神が 「タケオ!自分で切り開いてみろ!  自分の殻を自分の力で突き破ってみろ!」

って俺に言ってるんじゃないか!-------------------------
 





そして次の日の朝。
 

『よし決着をつけてやる!
 
あのときの自分に決着をつけてやる!』
 
 

僕の心は決まった。
 

今日は僕にとっての決戦のとき。



つづく。


第136話:後ろを振り返ると・・・ 

今朝はいつもより澄んだ空だった。

いや僕にだけそう見えたのかもしれない。


そう、僕の心もすっかりどす黒い曇り空から台風が過ぎ去った後のあの青く澄み切った青空のようだった。

 
『よし!!』
 


「いってきます!」
 

僕は気合いを入れ、実家をあとにした。
 



僕は自動車学校に向かうバスの中にいる。
 

なぜか手の震えが止まらない。
 


これは緊張?
 

武者震い?
 

それとも恐れ?
 


なんとも言えない感覚だった。
 

僕は震えの止まらないその手を
グっと、思いっきり組む。
 



そして・・・・決戦となる自動車学校についたのだった。
 
 


けれども僕の着いた時間が少し早かったようでまだ江田は来ていない。
 


僕は江田が来るのをこれでもか、これでもかと待ち続ける。



こんな時に限って、あいた時間があるというのはなんとも落ち着かない。
 


僕のイメージでは、ここに来てすぐに気合いが入っている状態で江田との決戦に望むはずだった。
 


しかしまだ江田は来ない。
 

僕は気合いを入れた分、その気合いを持続させる事に賢明だった。
 


それから30分・・・・1時間、、、、、、、、、、江田はまだこない。
 
 
 
そしてとうとう午前の学科授業が終わってしまった。
 
 

『なんだよ!!江田のヤローこねぇじゃねーか!』
 


なんとなく拍子抜けしたというか、、、


気合いの空回りというか、、、
 
 

気合いを入れた分、どっと体全体が重くなった。
 
 
 

『なんか疲れちまったな~はああ。
 
まあいいや、明日にしよう』
 
 

僕はそう気持ちを切り替えて昼食を済ませ、トイレで一息つき

トイレのドアを開けた。



すると、肩をポン


「よう、タケオ!」



僕は一瞬、ビクッとして・・・・それからおそるおそる後ろを振り返ると、



「よう、タオケ来てたのか!」




そこには江田が立っていた。




不意をつかれるとはまさにこんな状況のこと・・・・。







「姉さん・・・・・どうしよう。。

もう僕には頼りとなる力も気合いもありません。」




姉さん・・・事件です。


第137話:やっぱり無理なのか・・・ 

「ようタオケ!お前も来てたのか?」


僕は後ろを振り返る。


するとそこには今日対峙するはずだった江田が、、、、そこにはいた。


『えっ』


僕は完全に不意をつかれた。


安心しきったところに突然爆弾を落とされた・・・・そんな心境だ。



「あっああ・・・」


僕はあまりのタイミングにこんな反応しかできなかった。



『こんなはずじゃ・・・』


それから僕は江田と同じ実車時間となっても何も言えずにいた。



『こんなはずでは・・くっ!』


僕は自分の不甲斐なさに唇を噛み締めるほど、怒りが沸いて来た。


けれども、今の僕にはどうすることも出来ない。


『またあの時と同じか・・・』

いじめられていた当時の場面が次々とフラッシュバックのように僕の頭を駆け巡っていく。



・・・・・・・・・・『やっぱり俺には無理なのか?』


『過去を清算するとかいっといて・・・・・・・・・実際はこんなものなのか?』


『やっぱり俺はいつまでの中途半端なのか・・・?』




10分・・・・・20分・・・・・・・35分・・・・・・・・・・・40分



そしてとうとう実車の時間が終わってしまった。



「それじゃあな~。タケオ・・プーーーちゃん! だははは!」


江田はこう言い放ち帰ろうとした。



『クソっ!!このままでいいのか???

タケオ!このままで・・・』


僕はグッと自分の手を握り締めた。


『神様!!』




・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「江田!ちょっと待て!!」


僕は叫んだ。


第138話:震えのとまらない手に 

「江田!ちょっと待て!!」


僕は思わず叫んだ。



それに対して江田は、、、、



「は?なんだって?」


こっちを振り返るなり江田の口調が荒っぽくなった。


そして僕の方に近づいてくる。



僕はそれでも後ずさりせずググッと拳を握り締めて、


「俺はもう・・・・に負けない」

そう呟いた。



「はああ、お前今なんて言った!!」


江田は首を振りつつ目を細めながら近づいてくる。




『もう俺は負けない。。。自分をなくしてたまるか!

いつまでも中途半端な俺でたまるか!』




「俺はもうお前なんかに負けない!っていったんだよ!」

僕はこう江田に言い放ったのだった。



すると、この僕の言葉に


「なっなに~!!」

江田が僕に顔を近づけにらみつける。








・・・・・・・・・・『神様!ちょっとの間でいい、俺に勇気をくれ!』



僕は心の中で叫んだ。



すると、そのときだった。


不思議な事に僕は今までに経験した事のない、内側から沸きあがってくる力を感じた。



そして


「俺はいつまでも高校のときの俺じゃない。

俺は東京に出てから格闘技を始めて体も心も鍛えられてきた。

だから、
俺はもうお前には絶対負けないし、お前は俺に勝てない。

今度、さっきの言葉を言ってみろ。

絶対に俺はお前を
許さない!!」


僕は目を見開いて江田の方をじっと見つつ、自分でもビックリするほどに覇気のある口調で江田にこう言い放ったのだった。



すると、江田も何か感じたのだろうか・・・


「おっおまえ、急に何を言ってるんだ。

ふっふん、そんな事ねーよ。

じゃっじゃあな!」


さっきまでのケンカ腰はどこへやら・・・江田は声を小さくし、そのまま帰っていってしまった。



それからどれだけ時間が経ったのだろう・・・・・しばらくして、、、、

ハッと僕は我に返った。


そして僕は自分の手が震えていることに気がつく。



『震えてる・・・・・まだ震えてるよ。。。。。。。。。

でも・・・・言えた。

俺言えちゃった、言えちゃったよ!!

あれだけ言えなかったひと言を・・・・

この3年間言えなかった事を、、、、、、俺言えちゃったよ!!

うお
!!!』


自分でもビックリだった。


でもなぜあんな言葉を堂々と江田に対して言えたのか・・・・・・実は今でもよくわからない。


だがひとつ言える事は、僕の言葉は江田にとっても大変大きな衝撃だったようで、、、、あれ以来、江田が僕に対してちょっかいを出すことも

僕のアキレツ腱となっていたあの【プー】という言葉も一切使わなくなっていた。



しかもいつの間にか僕自身にとっても、

この【プー】という言葉はもう、僕のアキレス腱でも何でもなくなっていたのだった。



こうして僕にとっての大きなトゲが、そして大きなトラウマがふっと消え去ったのだった。


この消え去る時の早さは、なんと早いことだろう。


なにせこれまでのずっと重荷となっていたものが一気になくなったのだから。



僕は江田が帰った後も、まだ震えのとまらない手をじっと眺めていたのだった。




すると、

ルルルルルー  PHSが鳴った。


ピッ

「はいタケオです。


えっ!アルトノさんですか?


どうしたんですか急に」


「・・・・・・・・・・・。」


「ええ僕は元気ですよ。アルトノさんはどうですか??」


「・・・・・・・・・・・。」



「ああ~そうですか!


で、今日はどうしたんですか?」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「えっ!学舎の固定電話の番号が止められてる!?


・・・って俺のせいですか!?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「あっはい・・・・。俺が早く復旧させろ・・・と。今鹿児島にいたとしても・・・ですね」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「あっはい、わかりました。鹿児島にいつつもなんとかします・・・それじゃあ」

ピッ





「だあああ、学舎の固定電話の料金支払うのすっかり忘れてた~!!!!」





一難過ぎてまた一難・・・・・俺の人生って・・・・トホホホ。


つづく。


第139話:くれぐれも安全運転でな! 

自動車学校通いの3週間の生活も無事に過ぎ、先ほど卒業検定いわゆる卒検が終了した。

「それでは合否を発表します」

僕は目をつぶり、そして息を呑んだ。

「タケタケオ君は・・・」


僕にとってこの「・・・」の間がとても長く感じられた。


『タケタケオ君・・・の次はなんだよ! 早く言えよ!!』

と僕は心の中で叫んでいた。



ともあれ、それにしてもこの「・・・」の間が普通に長い。


まあそれもそのはず。


今まさに合否宣告をしているのは、、、何を隠そう僕の担当教官であった原口さんなのだ。


この三週間を振り返ってみると、原口教官に教えてもらえた事は僕にとって結構プラスだったと言える。


なぜなら、教官は


年の割に


ギャグのセンスがよかったから。



・・・・・・。


もっもちろんバイクのセンスもよかったのだが、


バイクのセンスがよくても

「猫が寝転んだ」

「布団がふっとんだ」

「ロシアの殺し屋はおそろしや(ロシア)」

「フランスには雨が(フラン)」

見たいなオヤジギャグを言われた日にゃあ、

さすがの僕でも、さぶすぎてバイクの運転どころではないはず。


しかし、原口教官はちゃんとそこらへんを押さえおり、また原口教官はギャグを言えるほどに教習生への人当たりがとても良かったのである。


そんな教官が今まさに合否宣告するのだから、「・・・」の間は完全に押さえていた。


「・・・」の間と言えば、みのもんたの「クイズ$ミリオネア」の通称『みの溜め』が思い出される今日この頃であるのだが、この番組・・・・始まるのは実は次の年であった。


なので、勿論僕も原口教官も「クイズ$ミリオネア」なんて知らないし、みのもんたの『みの溜め』なんかも知るよしもない。



「タケタケオ君は・・・」
と原口教官。


僕はこの「・・・」の間を耐えることができず、思わずちらっと原口教官の方を見た。


すると原口教官、ニヤッと笑って


「おめでとう!合格!」




「よっしゃーーー!」


僕は思わず右手に握りこぶしを作りガッツポーズ。



そして、原口教官は


「くれぐれも安全運転でな・・」

と、ポンっと僕の肩をたたき、行ってしまった。


この何気ない原口教官の言葉。


僕にとってとても重い言葉のように感じた。


それは、姉から原口教官の娘が意識不明だったと聞かされ、また初めて会ったときのあの一瞬の原口教官の曇り顔を見たからだと思う。


だから原口教官の日頃の明るく振舞う様を目にしたときには痛々しくも感じた。



「ありがとうございました」


僕は去っていく原口教官に心からお辞儀をした。



こうして僕の自動車学校通いの生活は終わりを告げたのだった。



そして、次の日。


僕は試験場にいき学科試験に合格し、無事免許を取ることができたのである。




『ああ、あっという間の3週間だったな~。しかも高校のときの清算をこんなところでするなんて・・・・人生はわからないものだなあ・・・』


僕はしみじみこう感じつつ、免許を取ったその日の午後に飛行機で東京へと帰っていた。


そう、チャリティーランが控えている山手学舎のある東京へと・・・。


つづく。


第140話:翻弄され続けて僕

「おお!1ヶ月でこんなに変わるんだぁ~」

 
山手線の車窓からは新宿タイムズスクエアの隣に位置する建設途中のタワーらしき建物が見えた。

 
1ヶ月前はまだ足場が建物の周りを囲んでいたので何を建てているのか全くわからなかったのだが、

この1ヶ月足らずで足場も外されタワーの建築ということがその形からわかる。

 
東京は日に日に変化するとよく言われるのだが、その言葉の意味を今日僕は肌身で知ったようだった。
 



『それにしてもこんな不景気によくまあこんなデカい建物を作る会社があるとはなああ…いったいどんな会社なんだ?


完成したら一体何階建てになるんだろう。』
 



車窓から見える風景を眺めつつ、ポツリと僕。



 
このタワー、実はあとになって知ったのだが、NTTドコモの建物で通称:ドコモタワーと呼ばれる建物であった。



この建設当時、社会問題になっていたのはNTTドコモの迷惑メール対策。

当時のNTTドコモの課金システムでは1日一通の迷惑メールのおかげでなんと1日でNTTドコモには約2400万円も収益があったらしい。


例えば加入者全員に1日5通迷惑メールが届けばドコモには1日にして1億円以上の収益がでる計算に。



そんな渦中にあってのこの建設・・・・・


巷では、【迷惑メールの金で建てたんじゃ。。。】

というウソかホントか、、、そんな噂が流れたのだった。






それから僕は、新宿駅を通過し山手学舎のある高田馬場に降り立ち、学舎へと続く早稲田通りを物思いにふけりながら歩いていった。
 


パクさん旅行ドタキャン事件に始まり、木田さん紹介の築地バイトに、真さん達との出会い。


 
一人旅と奇跡的な再会。


 
そして運命的ともいうべき自動車学校での出来事。


 
振り返ってみれば、


すべてがギリギリの、



すべてが超スリリング満載の、



そしてひとつ間違えればえらい事になっていたであろう僕の夏休みはこうして終わりを告げようとしている。


 
まさに波瀾万丈とも言える他の大学一年生には負けない経験させられ、


常にどぎまぎさせられた僕の夏休みと云えよう。
 



『あっそう言えば、学舎でバイクの免許を持ってるのって山田さんだけだったけ?


榎本さんも高木さんも原付だし…、山田さんだって今乗ってるのは確かスクーターだし…。

 
 
ハッ!
 


ということは!


 
今度俺が木田さんからバイクを受け取ったら~~



 
おおっ!!
 



俺がバイク所持一番乗りになるってことかい!


おいっ!
 


クウゥ~いいね~』
 


この事実はこの半年間、山手学舎にそして舎生達に翻弄され続けた僕にとってはなんとも嬉しい事柄だった。




「これって・・・今度は俺がみんなを翻弄させる番なんかじゃないのか!

びっくりさせる番なんかじゃないのか!」



そう考えると顔が自然とニヤけ、知らず知らずに僕はスキップをしていた。



それから数分後、


「おっ!一ヶ月ぶりの学舎!!」

僕の目の前にはYAMAセンターが見えてきた。




「アレ?」



僕のスキップしていた足は止まった。




なぜなら



「このバイク・・・だれのだろ?」



山手学舎の駐輪場に見覚えのないワインレッド色のレプリカタイプのバイクが置かれていたからだ。




「かっけーーー!!俺もこんなバイクほしいな~。

たぶんここの利用者だろうな~。

にしても俺も早くこんなバイクほしいいいい~クゥゥゥゥーー」



僕はこのバイクを見て自分がバイクに乗っている姿を想像し、胸が高鳴った。


そして僕はその高鳴った思いを抑えきれず、心臓破りともいうべき学舎へと続く螺旋階段を猛ダッシュって駆け上がっていった。

が!





「ハアーハアーハアーキツッ!」






案の定、力尽きた。




僕は『かけあがるんじゃなかった』と後悔しつつ、いつも防火扉を開けた。



ギギギギギーーー




見ると、玄関には大量の靴とスリッパが散乱しており、




僕は思わず








「きったねーーーー!!」









『ここだけは東京がひっくり返ってもかわらねーだろうな・・・』


僕はそう確信した。



「ただいま~」

ぼくは元気よく談話室へ入っていくと



「おかえり~」


そこにはソファーでマンガを読む高木さんがいた。



「あっ高木さん!お久し振りです!」
と僕。




「おう!久し振り!」




「あっ!そういえば・・・高木さん。築地バイトどうでした?」
僕はこう質問した。



すると



「やばかった!まじやばかったんだよ!」

と、高木さん。




そう、実は・・・・


築地のバイトをやめる一週間ほど前のある日。



「タケオが辞める時はちゃんと後釜を紹介してくれねえーとやめさせねーよ!」


と築地市場のバイト先の真さんにこう言われたのだった。




「ええ!!」


僕はこの時、驚きを隠せなかった。



なぜなら、、、、





「誰がこんな出勤が夜中できっつくて、くっさいバイトをしたがる学生がいるかよ・・・」




とポツリ。





「おい!なんか言ったか?」





「やべっ!つい心の言葉が口に・・・・あははははは~いえいえなんでもないです~」





『はああ、どうしよう・・・』


僕はあの日から学舎内でバイトの募集を掛けたわけで、、、、、、、




「俺はもうバイトやってるから無理。。わりい」

と佐竹。


『そうですか・・・』






「えっ俺?無理無理無理無理無理。俺日本語しゃべれないから」


と、白。




『おめえーそんだけしゃべれてるじゃん!』






「あ~俺?俺は~アメフトと体操部と合唱部の合宿があるから無理」

と、田端。



『なんだその関連のなさは!どれかひとつに絞れよ』





と案の定、同期の面々は全滅。





「やっぱりそうだよな~・・・。まあしょうがない!今度は片っ端から行きますか!!」



今度は上級生にアクションを掛けてみたのだが、、、





「あ~、ごめん。卒論制作があるから無理なんだ~ごめん」

と、アルトノさん。



『そうですか・・・』







「あ~クンッ。倉庫のバイトが入っているから無理だよ~クンッ」

と、金さん。



『金さんのやってる倉庫バイトって一体・・・??』






「そんな臭いバイトできるわけない。」

と、眼鏡を中指で直しつつ冷静沈着な山田さん。



『・・・・・・・・』






とまあ、こちらの方もうまいこと行かず、、、、デッドラインとなり。。。



『あ~あ、今度ダメだったら真さんに無理でしたっていうしかねーなー。。。トホホ』


と、ダメもとで高木さんのもとへ。


すると、



「えっ?バイト!やるやる。
俺も・・・・バイトしないといけないし」

と高木さん。



「おっ!!!まじっすか?


いいんですか?


本当にいいんですか??


やったー!!めっちゃ嬉しいッス」





と、こんな感じで、僕はめでたく高木さんという後釜を残して築地バイトを後にし、


一人旅へと旅立ったのであったのだ。






「あのバイトはヤバイんだよ!!」


僕は、高木さんから詳しくバイトの話を聞くと、

バイトのメンバーの真さんたちはめちゃくちゃ良かったらしいのだが、

仕事内容の面で、


高木さんの体力が続かず2日間、熱でぶっ倒れてしまったらしい。



ちなみにこのときの高木さんの交通手段は原付。


一方の僕はと言うと、、手動付き自転車・・・・いわゆるママチャリ。




今回の件で、毎日自転車で通う僕の尋常じゃない凄さを高木さんは肌身で知ったというのである。




僕はこの話に若干、優越感。




そして僕はこの優越感を感じながら


「で、高木さん。築地で貯めた軍資金は何に使ったんですか?」

と質問。


すると




「アレ?前に言わなかったっけ?」


「へえ?」



『そう言えば、、、なんか言ってたような・・・・』

と、僕。




「それにタケオは下に置いてあったバイク見なかった?」





「えっ!」




「貯めた軍資金でバイクの免許と、バイクを友達から買っちゃった!!!


どう? 

かっこいいだろう、アレ!


タケオがバイトを紹介してくれたおかげだぜ~サンキュ!!」





「・・・・・・・・」





僕の若干の優越感は、1分ともたなかった。



『サキ・・・コサレテシマッタヨ』






姉さん、まだまだ僕には学舎を翻弄させる力はないようです。トホホ・・




つづく。