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第59話:もう誰も信じない

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「おい!お前。それいい財布じゃねーか」

見ると、僕よりもずっと背の高い高校生風の男が僕のすぐ横に立っていた。


今でも鮮明に覚えているが、あいつの顔の左下に大きなホクロがある。


「お前、いい財布持ってるじゃねーか。いくら入ってるんだ?」

もちろん、この男と僕とは全くの赤の他人。

初対面だ。


「えっえっ。なんでそんな事を言わないといけないの?」

僕は完全にビビリながらもそう言った。

「いいから、いくらあるんだよ!」

あいつは声をあげる。


その声を聞いて、通行人たちがこちらを振り返った。


これを見てあいつは急に

「じゃあ!ちょっとこっちについてきてくれる」

と優しい声に変る。


しかし、僕が

「嫌、嫌ですよ~」

とビビリにながら拒否すると、あいつは優しい声とは裏腹に、僕をにらみ付け、顔を思いっきり強張らせた。


「いいからこっちにこい」

あいつは右手で自分の自転車のハンドル持ち、左手で僕の自転車をつかみひっぱった。


そして、

「殺されたくなかったら、大きな声を出すんじゃねーぞ」

と僕を脅した。


小学生の僕は怖くなり、声もでなかった。


そしてあいつは僕をひと気のない場所へ連れていく。


といっても大人なら逃げようと思えば逃げられる状況だ。



そう、連れて行かれるといってもあいつの自転車の後ろをついていくのだから。


しかし当時、僕は小学生。


ちょっと僕が逃げるそぶりをするとあいつは顔を強張らせ、


「殺すぞ。」

と、周りの通行人には聞こえないくらいの声で僕にささやく。


この言葉を聞いた僕はやはり子ども。


『逃げても、小学生の僕じゃすぐに追いつかれ、絶対殺されちゃう』

という誤ったイメージを頭にインプットしてしまう。


子どもが一度、このような誤った情報をインプットしてしまったら最後、

他人が誤りをしっかりと指摘しない限り、自分ではどうしようもできない。


そしてただ犯人の言われるがままに従うのみとなってしまう。


だから程度は全く違うものの、いつぞやの少女監禁事件の事は僕もなんとなく理解できる。


その事件が発覚したとき、なぜ逃げ出せる状況にあったにも関わらず、自分から逃げないんだと指摘する人がいた。


違う!

そうじゃない!

逃げないんじゃない。

逃げられないんだ。

逃げたいけれども足がすくんで逃げられないんだ。


こう指摘する大人達は子どもの心理状況をもっとよく理解する努力が必要があると僕は思う。


僕もまさにこの心理状況に襲われ、恐ろしくて、恐ろしくて、逃げたくても逃げる事が全くできなかった。


そして、心の中で

『誰か助けて』

と叫ぶことしかできなかった。


僕は涙目になりながら、あいつの後ろをついていく。


その途中、多くの通り過ぎていく通行人の中には、僕と目が合う大人達がいくばくかいた。


僕は怖くて声が出せないので、目で

『助けて!助けて!』

と訴えた。

しかし、目の合う人々は、僕が涙目であっても助けを求めるような顔をしていても、僕の異変に誰も気付いてはくれない。


そればかりか、あいつは人とすれ違うときは、わざとらしく

「この道でいいんだよね」

と親しい関係を装い、通行人からは、兄弟のように親しい関係のように見えるようで、こちらに笑顔を向ける始末。


そのせいで、僕の心の叫びは誰にも届くことなく、いくつかの場所に連れ回されることに。



そして最終的には、人通りも多い歩道に行きつき

あいつはそこで、

「財布の中身をみせろ」

と僕に指示。



「本当にお金入っていないんです。」


僕はとうとう泣いてしまった。



「いいから見せてみろ!」


あいつはこう声を荒げると僕の財布がある前カゴに手を伸ばす。


「やめてよっ!」

僕は必死になって大事なお金が入っている財布を両手に抱え込んだ。


しかし、所詮は小学生。


高校生にかなう筈がない。


「ふざけんなコラ~!」


あいつは力ずくで僕から財布を奪い、自分の自転車に乗って逃げようとした。


「やめてよ!僕の財布返してよ!」


僕は泣きながらあいつの自転車にしがみ付く。



「取るな!取るな!ドロボウ~!」


僕のその泣きじゃくりながらも叫ぶ声は大通りに響いた。


そして自転車にしがみつき、必死に抵抗している僕の姿は、歩行者や大通りを走る自動車の中からも気付くほどのものだった。



僕は泣きながら必死に自転車にしがみつく。


「こらっはなせ!」

あいつは、僕の顔が潰れるほどに左手で押えつけ、自分の自転車から引き離そうとした。


僕はそれでも決して離さない。

「ドロボウ!ドロボウ!」

と叫びながら必死に抵抗する。


あいつは僕の思いがけない抵抗にビックリしたのか、

僕が自転車にしがみついているにも関わらず自転車をこぎだした。


「くそ~僕の財布返せよ~ドロボウ~!え~ん」


僕は無我夢中でその走り出す自転車の後ろにしがみつく。


「うるせーぞコラ!」

あいつは、僕を引きずったまま自転車を力いっぱいにこいだ。


そのせいで僕は、5メートルは引きずられただろうか。


とうとう僕も力尽きて手を離してしまった。


そしてあいつはそのまま行ってしまった。


僕は引きずられた後、泣きながらも「ドロボウ」と叫びながら、自分の自転車にのりあいつの後を追いかけたのだが・・・・


時にすでに遅く、


あいつの姿は見えなくなっていた。



僕は今でもあのときの情景を鮮明に思い出す。


そう、あいつの顔だけじゃなく、大人達の冷たく無慈悲な姿を・・・。


僕が泣きながら必死にあいつに抵抗していたとき、横でただ傍観するだけだった大人達の姿を。

「やめてよ!僕の財布返してよ!」

「ドロボウ!ドロボウ!」

「くそ~僕の財布返せよ~ドロボウ~!え~ん」

と、叫んでも誰も助けてくれやしない。


明らかに子どもが高校生にやられて泣いているのをわかっているはずなのに、周りの大人は誰も助けようとはしない。


「イタッ」

僕は気付くと足の痛みを覚えた。


見ると、両ひざからは、たくさんの血が流れ出て皮膚がただれていた。


さっきのひきずられた痕だ。


僕は足を引きずりながら、自転車を押した。


けれども、周りの大人たちはそんな僕に

「大丈夫?」と声をかけることさえしなかった。


そればかりか、泣きながら自転車を押す僕と目が合うと、周りの大人達は、すぐに目を背けてそのまま歩いて通り過ぎて行く。


『誰も助けてくれないんだぁ』

『誰も僕を助けてくれないんだぁ』

『誰も僕に声をかけてはくれないんだぁ』


僕は、財布を取られたことよりも、周りの大人達の薄情さに子どもながらも大きなショックを受けた。


『人は良い事を言うくせに本当は嘘つきで信用できない奴ばかり。
結局は、助けを求めたって誰も僕を助けてくれないんだ』 と。


人なんか誰も信じない。

人なんか誰も信用しない。


そうこれが僕の心の闇の出発点。



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